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“はじめてのタイ文学 2016” @Tokyo Art Book Fair 2016

こんばんは、外もだんだん涼しくなって、季節は秋。読書の秋、ブックフェアの秋ですね!

ソイミュージックは9月16日(金)〜9月19日(月)に開催される、Tokyo Art Book Fair 2016に出展します。ブース名は”SOI BOOKS“、ブース番号はA23です!

今年も昨年同様、たくさんグッズを取り揃えています。今年の目玉のうち、一つ紹介しますね。
その名も「はじめてのタイ文学 2016」です。

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昨年のTABFで制作した「はじめてのタイ文学」の続編ですが、中身は大幅グレードアップ!現代タイ文学の作家10人の作品10篇を選び、それぞれの作品の冒頭部分を翻訳掲載しています。もちろん、すべて未邦訳の作品です。A5サイズ、全12ページ。

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表紙と裏表紙、各作品にはかわいいイラストつき!タイのデザインチーム、Ideogram Creative (URL) による描き下ろしです。ブックレットのデザインは大岡たかえさん (URL) にお願いしました。

 

 

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数量限定、350円で販売します。日本にいるとなかなか触れることのできないタイの文学、この機会にぜひお手に取ってみてください!

会場アクセスなど、詳細は以下URLから!連休はTokyo Art Book Fairでお会いしましょう!
URL: http://tokyoartbookfair.com/

文責:福冨渉(twitter

気がつくとタイ映画の秋だった2015②:第28回東京国際映画祭上映タイ映画『孤島の葬列』雑感

福冨です。
一つ前の記事で、第28回東京国際映画祭で上映されたタイ映画『スナップ』について書きました。
こちらの記事では同じく東京国際映画祭で上映され、「アジアの未来」部門で作品賞を受賞した、ピムパカー・トーウィラ(Pimpaka Towira)監督の『孤島の葬列(The Island Funeral)』について簡単に感想を記しておきます。こちらも『スナップ』と同様、福冨のツイッター(sh0f)に書いたもののまとめになります。

以下『孤島の葬列』の予告編とあらすじ、福冨による感想です。同じくネタバレがあるのでお気をつけください。

タイ南部のイスラム地域を旅するライラー。やがて彼女は眼前に姿をあらわした離島へと渡り、不思議な体験をする…。監督(『ワン・ナイト・ハズバンド』)、プロデューサー(『稲の歌』/TIFF14出品)、批評家など多才な顔を持つピムパカー・トーウィラの長編第2作。
ピムパカー・トーウィラ:タイの女性監督として、初めて世界で名を知られるようになる。そのきっかけとなったのが長編デビュー作『ワン・ナイト・ハズバンド』。これまでの全作品において、脚本、監督、製作を担っている。2009年、タイ文化省から現代アーティストに贈られるSilapathorn賞を受賞した。
東京国際映画祭Web「孤島の葬列」作品ページより引用)

感想:
予告編からも見える通り、バンコクから深南部パッタニー県に向かい、そこからさらに深く進んでいくロードムービーです。『スナップ』の翌日に見てしまったこともあり、政治的側面を切り離して見ることが難しかったです。個人的には2014年9月にパッタニー県の独立系書店を訪れるため、現地を訪れたことがあり、風景を懐かしく思うこともできました。

パッタニー市内から少し外れたところ。 2014年9月撮影。

パッタニー市内から少し外れたところ。
2014年9月撮影。

タイ深南部と呼ばれる、マレーシア国境近くの地域では、ムスリムであるマレー系住民が非常に多く生活しています。もともとはイスラームの国家であったパタニ王国という国があったところを、19世紀〜20世紀の境目に、タイ政府によって「タイ」として併合された場所が現在の深南部にあたります。そのため、特に第二次大戦後になって、中央政府に対する抵抗意識が反政府運動・分離独立運動として結実していったという背景があります。一度は沈静化した治安でしたが、21世紀にタクシン首相が政権の座につき、深南部に対して強権的な政治を執るようになると、再び悪化していきます。バンコクでも、深南部における爆弾テロや襲撃のニュースが目にされるようになったのです。
この映画はそんなバンコクの人々がもつ「南部の人々=ムスリム」への漠然とした恐怖がまず示される映画でした。車で南部に向かいながらも、現地での過激派のテロのニュースや、パッタニーで出会った見知らぬ男に怯え続ける非ムスリムのトーイ。その一方で、ムスリムである主人公の姉弟二人からそういう恐怖の感情が見えないので、バンコクの人間がもつ偏見にも似た恐怖がことさらに強調されます。

それでも旅を続ける三人は、クルーセ・モスク(マスジド・クルーセ)に辿り着きます。2004年4月、このモスクでタイ政府の治安部隊と現地ムスリム住民の衝突が起き、数十人が死亡します。そのため、映画のこのシーンにおいても、否が応でも暴力の記憶が喚起されます。けれどここで暴力を受けていた対象は、それまで加害者だとしてバンコクの人々から恐れられていたムスリムの人々なのです。けれどもその事実を全く知らないバンコクの人間の滑稽さ。ここで一度、南部における暴力が相対化され、バンコク/南部=被害者/加害者の区別が消えていきます。

クルーセ・モスク(マスジド・クルーセ)。 2014年9月撮影。

クルーセ・モスク(マスジド・クルーセ)。
2014年9月撮影。

さらに二度目の暴力の相対化が起きます。主人公ライラー達の乗る車のカーラジオから漏れ聞こえる、2010年に発生していたバンコクでの政治的混乱のニュース。セントラルワールドの焼失、赤服デモ隊の強制排除、赤服デモ隊幹部チャトゥポーンの出頭。ここでバンコクでの暴力が見え隠れすることで、バンコクー南部の分断すら相対化される。アフタートークでのピムパカー監督の言葉に、暴力はどこでも起こりうる、というものがありました。

たどり着いた島ではさらに、自らのルーツが中国にあることを知るライラー。中央/南部、タイ/マレー、仏教/ムスリム、などといった差異が、混淆に混淆を重ねることで意味を持たなくなります。そこに重なって映る死者の葬列と埋葬。そしてライラーと伯母のあいだの、あらゆる多様性が共存できるユートピアを探求するようなダイアログ。ただ個人的には、ここの会話があまりに説明くさくてちょっともったいないなあと感じてしまいました。けどこのシーンこそが「アジアの未来」で賞を獲った所以なのかなあ、とも考えています。

パッタニー県ヤリンの海。

パッタニー県ヤリンの海。
2014年9月撮影。

本当は政治性を切り離して、美しさを求めるロードムービーとして見たいとも思っていたのですが、劇中の細部を追ううちに、それも難しくなってきてしまいました。同じく死のモチーフを扱ったタイ南部へのロードムービー『帰り道(I carried you home)』などとはまったく違う景色の見える映画でした。

以上ネタバレ込みで、ピムパカー・トーウィラ監督『孤島の葬列』初見の感想でした。

けれども実はタイ映画の秋2015、まだ終わりません!
11/7(土)〜11/20(金)に開催される、映画配給会社ムヴィオラの15周年特集上映「はしっこでも世界。」ではアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『世紀の光』(11/7)と『ブンミおじさんの森』(11/14,17)が上映されます。詳細はこちら→http://moviola15th.tumblr.com/
さらに11/21(土)〜11/29(日)の第16回東京フィルメックスでは、ジャッカワーン・ニンタムロン(Jakrawal Nilthamrong)監督の『消失点(Vanishing Point)』が上映されます(11/23,25)。こちら、先日バンコクでの上映が終わったところで、なかなか話題になっていました。詳細はこちら→http://filmex.net/2015/program/competition/fc04

まだまだ楽しみは続きますね。寒さに気をつけて、タイ映画を楽しみましょう!

(福冨渉〔twitter〕)

気がつくとタイ映画の秋だった2015①:第28回東京国際映画祭上映タイ映画『スナップ』雑感

福冨です。
今年の秋はタイ関連イベントシーズンになっていますね。
Yellow Fangの日本ツアーもありましたが、今回はタイ映画の話、二本立てです。

10/22~10/31の期間で開催されていた第28回東京国際映画祭で、タイ映画が二本上映されていました。
一つはコンペティション部門で上映された、コンデート・ジャトゥランラッサミー(Kongdej Jaturanrasamee)監督の『スナップ(Snap)』。
もう一つは「アジアの未来」部門で上映された、ピムパカー・トーウィラ(Pimpaka Towira)監督の『孤島の葬列(The Island Funeral)』です。
どちらもこの映画祭での上映がワールド・プレミアということで、たくさんのお客さんがいらしてました。とても良い映画でしたね。
福冨のツイッター(sh0f)に書いたもののまとめですが、二本とも簡単に感想を記しておきます。
こちらの記事では『スナップ』のみで、『孤島の葬列』についてはこちらの記事をご覧ください。

以下『スナップ』の予告編とあらすじ、福冨による感想です。ネタバレがあるのでお気をつけください。

卒業して8年。ヒロインは母校で行われる同級生の結婚式に出席すべく故郷に帰る。そこにはカメラマンになった初恋の相手の姿も。ふたりで数えた池の魚。思い出のベンチ。上書きされてなかった恋の痛みに、婚約者がいながら動揺してしまう女性の姿を、スタイリッシュな画面で綴る美しい青春映画。
コンデート監督は新作の度に作風を変えて見る者を驚かせるが、今回はクーデター後の戒厳令の暗い現実と、美しい恋愛模様の甘酸っぱさが絶妙なコントラストをなす、奥行きの深い作品を完成させた。表向きは王道の青春映画でありつつ、社会、家族、個人、SNSといった、複数の次元の「現実」が多様に交差する現代を表現し、スタイリッシュな映像も含めてその演出は熟練の域に達している。ヒロイン役のワルントーンはガールズグループに所属したこともあるが、現在は大学生で、本作が映画デビュー。年末に歌手デビューも予定されている。相手役のトーニーはメルボルンで教育を受けた後、モデルや俳優として活動し、話題作への出演も相次いでいる期待の若手。
コンデート・ジャトゥランラッサミー:タイの大手映画会社で3本の長編を監督し、初めてのインディペンデント作品『P-047』を監督。同作は2011年のヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で初上映された。『タン・ウォン 願掛けのダンス』(13/TIFF14出品)はベルリン国際映画祭で初上映され、タイ・アカデミー賞をはじめ、数々の国内映画賞を受賞した。最新作“So Be It”は2015年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で初上映された。
東京国際映画祭Web「スナップ」作品ページより引用)

感想:
あらすじを読んだ上で表面的に見ていると、何だか薄っぺらな青春恋愛映画に見えてしまうのですが、2014年の時間的・社会的文脈と一緒に見てみると、印象のガラッと変わる映画でした。

一つの出来事に対して異なる人々がもつ記憶・印象はそれぞれ異なり、それぞれが自らの記憶に基づいて自分なりの物語・歴史を再構成してしまいます。タイトルにもなっている「スナップ」はそれを撮影した人それぞれの記憶が具現化したものではないでしょうか。アフタートークのコンデート監督の言葉で、「Snapとは撮った瞬間に終わってしまうことも意味している」というものがありました。主人公プンはスナップを撮り、そこにキャプションを自ら書き加えることによって、自らの記憶・印象・感情を「そうであった事実」としてそこに記録し、書き換え、固定し続けています。
実は2014年のクーデター直後、実際にSNS上でまったく同じような状況が起きていました。2006年のクーデターから2014年のクーデターに至るまでの経緯・原因・バックグラウンドについて、さまざまな人がさまざまな意見を表明した数だけ新しい物語が生まれてしまい、それが現実の人間関係に少なからず影響を及ぼしていたのです。僕の周りでも、クーデター後に積極的に反クーデターの発言を繰り返していた友人が、少し経つと発言をパタリとやめて、Facebookのアカウントを閉じたり、フレンドリストを一斉に整理し始めるような状況が、一人でなく見られていました。聞いてみると「昔の友人とうまくいかなくなった」との理由。
単に政治的意見が食い違うから、というだけではなく、Aの意見をもつ=Aな人間、Bの意見=Bの人間、という風に、ひとりひとりの人格すら、たった一言や二言のレッテルで規定されるようになっていたのが2014年5月以降のタイの状況だった、とも言えるかもしれません。話はそれますが映画評論家filmsickことウィワット・ルートウィワットウォンサーがクーデター後わずか三ヶ月で発表した小説『2527年のひどく幸せなもう一日』は、まさにこういった状況をとても良く描いていました。

2014年軍事クーデター翌日、バンコク都内某所で撮影。

2014年軍事クーデター翌日、バンコク都内某所で撮影。

劇中に漂っている寂しさは単なるノスタルジーによるものではなく、同じ時間を過ごしたはずの人々が感じるノスタルジーすら、実は共有できていないということかもしれません。その始まりは序盤、クイティアオ屋での友人同士の会話の中に見られます。友人ラン(ルン?)と、そこにはいない別の友人ノップの仲違いの話。ノップが俺のことをサリム(=黄服を揶揄する言葉)って言いやがったというランの怒りは、2014年のPDRCのデモからクーデターに至るまでの、人々の感情にまつわる空気感を一番具体的に、はっきり示しているシーンでした。この大きなすれ違いをきっかけに、他のすれ違いが色々と浮かび上がってきたように思います。
まずはもう一人の主人公ボーイとノップの記憶のすれ違い。男友達みんなで旅行に行っただろうと言うボーイと、その記憶がすっぽり抜け落ちているというノップ。「お前らがそう言うから、行ったような気になってくる」とノップが言うのも、記憶と印象の書き換えの一種。その後ボーイが記念写真を見せてくれることで、その旅行は事実だったことが確認されます。
さらにマンとプンの馴れ初めにまつわるすれ違い。マンがプンを口説くのに使った言葉「君の払った罰金を、一生かけて払わせてくれ」=甘い物語の記憶のエピソード。けれども一方のマンはそんなこと言っていないぞ、と主張します(四分の一笑いくらいの表情ではありましたが)。こちらは結局事実なのかどうか確認されません。
そしてプンとボーイが高校時代、一緒に育てていたという魚に関するすれ違い。ボーイはその魚には長くて青い尾が生えていたと言い、一方のプンはトカゲ(トゥッケー)に顔が似ていたと言う。忍び込んだ深夜の水族館でこれだ!と見つけた魚は、寿命四〜五年の魚であるにも関わらず、プンは八年前に育てていた魚がそこにいると主張します。ボーイは確かに魚の顔がトカゲに似ていると認めます。
しかしながら、この映画唯一のフラッシュバックのシーンにおいて、現在の二人が見つけた魚と、当時育てていた魚がそもそも違う種類の魚であったことが示されます。逆説的ではありますが、互いが互いに作り出した物語が、もともとあった事実にとって変わって、新しい事実になる瞬間です。

まったく煮え切らない主人公ボーイの悲しさは、そのすれ違いをどこかで理解しながら、それに正面から向き合って、擦り合わせることができないことなのでしょう。高校時代の別れの日、プンの写真を撮るからと送ってもらった父の身に起きた事故に責任を感じ後悔するボーイですが、その後何年間も、自らの後悔を父のもつ感情と擦り合わせられないまま、父は逝ってしまいます。だから彼は父の後ろ姿の写真しか撮れないままなのかもしれません。プンが相手の場合もそれは変わらないでしょう。
プンは自らの作り出した物語を事実として信じ、そこに郷愁を覚え涙するほどです。ある種それほどまで決然としてしまったプンに、ボーイは正面から向き合うことができなません。だからボーイはプンの後ろ姿を追い続けることしかできないし、プンの目の前の風景からはボーイが消えて、影だけになってしまいます。
現実に自分の目の前にいる生身の人間よりも、スナップに記録された記憶=書き直された物語・歴史のほうが、「事実」としてより正しいものとして認められる。2014年5月前後にタイにいたときの空気感をものすごく強く想起しました。
劇中で音楽が人と人を繋いでおくのに有効に働くのは、それぞれの曲に対する印象は異なっていようとも、曲そのものは曲そのものとして変わらないからではないでしょうか。同じ時間を本当に共有したのか?この郷愁は偽物なのか?という疑問の中で、曲はむしろ確かなものとして響きます。
その意味で二人が再会する屋上のシーンは示唆的です。プンは、二人の思い出の曲であるヤリンダ・ブンナーク曲名を「スカイライン」だったと勘違いし、それをボーイに指摘されます。けれどもプンはその曲名が何であったのか「どうでもいい」と言ってしまう。プンは自分で切り取ったスナップ=記憶のほうを選んだことになり、実はこの時点からボーイとプンの断絶は決定的だったのかもしれません。

2014年のクーデター前後は、SNS上で数えきれないほどのデマが流れる時期でした。けれどもそこには、「いいね!」が一つしかつかない事実よりも、「いいね!」が100つくデマのほうが「真実」だとされる空気があったのです。プンが写真をインスタグラムにアップして、いいねの数があっという間に増えていくのはある種、とても皮肉ですね。

以上がコンデート・ジャトゥランラッサミー監督『スナップ』初見の感想でした。クーデター後の状況に対して、割と明確に疑義を呈している作品だと思ったので、むしろタイで上映するときの反応が気になりますね。

なお劇中、登場人物たちよりも、むしろコンデート監督の世代ストライクなのでは?という曲がこれでもか、とばかりに流れます。
こちら、ラストに流れるプンとボーイの思い出の曲、ヤリンダ・ブンナークの「思うだけで(แค่ได้คิดถึง)」のMVです。
劇中は全体的にインディーズ感溢れていたのに、最後の最後にこんなGMMっぽさバリバリの曲…?と思っていたのですが、これもプンとボーイのすれ違いの虚しさを見せる上では結構効果的なのかもしれませんね。

もう一つの記事でピムパカー・トーウィラ監督『孤島の葬列』について簡単に書きます。

(福冨渉〔twitter〕)

The Tokyo Art Book Fair 2014にて、Yellow Fangのアルバム”「The Greatest」が日本語歌詞カード付きで!

 

みなさん、季節が変わってもいまだバンコクで最高に熱いバンド、Yellow Fangのアルバム”The Greatest”、お聞きになりましたか?

 

あなたの考えていること そうなの?それとも勘違いなの?
考えるのをやめないで 聞こえているでしょ
知らないわからない 何のことだかわからない
知らないわからない 目の前のこと

わたしに餌をあげて わたしに餌をあげておいて
わたしに餌をあげて わたしに餌をあげておいて わたしに餌をあげておいてね

Yellow-Fang

soi musicは今週末9月19日(金)〜21日(日)に開催されるThe Tokyo Art Book Fair 2014にブースを出展しますが、そちらでYellow Fangの”The Greatest”も販売します。

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そしてなななんと、今回の会場限定(いまのところ)で、アルバム収録楽曲のタイ語歌詞の邦訳シートもつけて販売しちゃいます!これでもう「The Greatestにはせっかく歌詞カードもコード譜もついてるのに、タイ語だから結局意味がわからなくて残念…」という心配もありませんね!

なお翻訳は木村と福冨でやってみました。Yellow Fangの歌詞は一見平易なのですが、実は断片的に言葉が並べられていて、意味をトレースするのは結構大変です。でもそのぶん想像力を働かせる楽しみもあるだろう、と、なるだけスッと言葉が頭に入ってくるような日本語にしてみました。キュートさも深さもある歌詞と合わせて、アルバム”The Greatest”、楽しんでみてください!

 

そしてここにある全て あなただけ知らない
最後に私たちにできるのは さよならだけ
終わって私に残ったもの全て あなただけ訊かなかった
最後に私たちにできるのは

なおThe Tokyo Art Book Fair 2014ではウィスット・ポンニミットの『ヒーシーイット』スペシャルバージョンや、地元のバンコクっ子が教える地元の美味しいお店の紹介冊子『BANGKOK SECRET ADDRESS』も販売しますよー。ブースはJ06です。

The Tokyo Art Book Fair 2014

(福冨)

日本語で読めるタイ文学:雑誌『東南アジア文学』刊行中

 

福冨です。
いきなり余談ですが、先日このブログを読んでバンコクの独立系書店Candide Booksを訪れてみた、という方に偶然お会いしました。前回の記事を書いたあと、店舗スペースが拡張されてカフェのテナントが入ったため、全体的にさらにゆったりとしたお店の作りに変わっています。是非みなさんものんびりしに行ってみてください。(前回の記事

さて本題ですが、昨年末頃から、東京外国語大学の教員・学生を中心に、古今の東南アジア文学の作品を翻訳紹介する雑誌『東南アジア文学』を作っています。もともと1996年に同大の教員と学生で発行を始めた雑誌なのですが、10号まで出て1999年から休刊。2013年になってもういっちょやるかと、同年10月の第11号から再刊しました。今年の6月に第12号を発行したところです。

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今のところタイとベトナムの文学作品や評論の日本語訳のみを掲載していますが、今後はもっと沢山の国・地域の作品を紹介していく予定です。

基本的に無料で配布しているのですが、印刷部数が少ないためあまり多くのところにお配りできていません。その代わりと言ってはなんですが、それぞれの作家・関係者から許可をいただいて、雑誌のtumblrページから翻訳作品のpdfファイルをダウンロードできるようにしています。

第11号はこちら

第12号はこちら

各翻訳者による各作家・作品の解説や、作品からの引用などを定期的にポストしているので、tumblrユーザーの方は是非フォローもしてみてくださいね。

さてせっかくなので11号と12号でタイ文学の一体どんな作品が取り上げられたのか少し見てみましょう。

第11号

  1. 「天使の都、天使の檻(1)〔クルンテープ、クロンテープ〕」 / ウティット・ヘーマムーン(ダウンロード)
  2. 「罵る声」 / ウティット・ヘーマムーン(ダウンロード)
  3. 「ほんとうの死」 / チラット・チャルームセーンヤーコーン(ダウンロード)
  4. 「古い家」 / サムット・ティータット(ダウンロード)
  5. 「いとこ」 / シーブーラパー(ダウンロード)

上から順番に行きましょう。1と2のウティット・ヘーマムーンは1975年生まれ、2009年に長編『ラップレー、ケンコーイ』が東南アジア文学賞を受賞した、今のタイでいちばん精力的に活動している作家の一人です。2014年からは文芸誌WRITERの編集長も務めています。ここに所収された短編二本は2014年の最新短編集『悪、俗』にも所収されている二作品ですね。

これまで長編作品ではタイの地方にある自分の故郷の物語を書くことの多かった彼ですが、ここ最近ではその焦点がバンコクの都市生活に移っているような印象があります。「天使の〜」は2006年軍事クーデター直下のバンコクのスラムに生きる不良少年たちの、「罵る声」は絆と記憶を失った男と創り出された神聖性にまつわる物語、とでも言えるかもしれません。

3と4のサムット・ティータットことチラット・チャルームセーンヤーコーンは以前もこちらのブログで紹介しました若手作家です。「ほんとうの死」は本名のチラット名義で以前に出版された短編集の作品です。近未来ディストピア小説風ですが、繊細でノスタルジックな人間の意識の流れがよく描かれている作品だと思います。「古い家」は彼の作品に通底する「こちら側とあちら側」の邂逅/あるいは日常と異常の遭遇、みたいなものを冷たさを感じるほどに平易に書いている作品です。

5のシーブーラパーはなんと1905年生まれの作家ですが、現在のタイの小説の基礎を作った作家として、タイ文学を語る際には100%言及される大作家です。タイ社会における自由と平等の実現を目指した活動家としての側面と、その理想を反映した作品が注目されがちですが、彼のキャリアの最初期である1929年に書かれたこの「いとこ」という作品は、むしろ娯楽性の高い悲恋ものの短編として読めるかもしれません。時代背景を考えれば、タイにおいて「恋愛」と「結婚」が分化していく、結婚が家族のものから私的なものへと移り変わって行く過程を描写している、とも言えるかもしれませんね。

第12号

  1. セミナー「文学における市民」 / 作家集団セーン・サムヌック(ダウンロード)
  2. 「静かに流れ落ちた涙」 / シーダオルアン(ダウンロード)
  3. 「粉雪の下に眠る」 / プラープダー・ユン(ダウンロード)

1の「文学における市民」は作品ではなく、2014年に行われた、作家たちによるセミナーのもようを撮影したビデオクリップの音声をテープ起こしして、それを翻訳したものです。作家集団セーン・サムヌック(意識の光)というのは、プラープダー・ユンやウティット・ヘーマムーンをはじめ、東南アジア文学賞詩人のサカーリーヤー・アマタヤーや名インタビュアーで詩人・編集者のウォーラポット・パンポン、おそらくいまのタイでいちばんラディカルながら冷静沈着な批評を書くことのできる作家・編集者のワート・ラウィーをメンバーとする作家集団です。

作家たちが現代のタイにおける文学の役割に関する話をしているため政治的な内容も多いのですが、いまのタイでおそらく最前線にいる作家たちがそれぞれ何を思い、何を考えて作品を生み出し、行動しているのかということがとてもよくわかるセミナーになっているかと思います。

2のシーダオルアンは1943年生まれで、まだ存命中の作家です。戦後のタイ文学においては、女性の作家は軒並み大衆恋愛小説家として活動しているという相場が決まりがちなのですが、そんな中で数少ない純文学系の女性作家です。彼女の夫がタイ文学において「文芸誌」というものを誕生・成立させた編集者であるスチャート・サワッシーであるというのも影響しているのでしょう。

ここに所収された1981年発表の「静かに流れ落ちた涙」はとある若い夫婦とその間に生まれた子どものことを描いた物語です。一見家族小説的ですが、そのバックグラウンドとして見え隠れする、タイ社会に根付く格差が物語の方向性を決めているところがあります。1970年代の政治動乱が収束してからのタイ文学というのは、そのテーマが政治・社会的なものから個人的なものに移って行ったと言われていますが、そういった移り変わりの時期の作品という意味でも、興味深いです。

3の「粉雪の下に眠る」は日本でもおなじみ、プラープダー・ユンが2006年に発表した中編です。タイ語版は100ページ超の一冊の本として出版されているものなので、それがまるまる読めるとなるとお得感がありますね!

バンコク、日光、ニューヨークを舞台に、謎の奇病に自らの意志を乗っ取られていく人々と、その奇妙な症状の様子を(部屋に閉じこもりながら)追いかける男の姿を、意外や意外、かなり官能的に描いた物語です。表面的にストーリーだけを追うと放埒なディザスター小説になってしまいそうなところですが、この小説を機にその後の作品でも展開されていく広義の「自然」に関するプラープダーの思想によって、物語がかなり緻密にコントロールされています。プラープダーが実際に滞在していた日光の情景の優美な描写も心に響きますね。

さて、長くなってしまいました。日本語で読むことのできる東南アジア文学、タイ文学の作品の数というのは、他の国や地域の作品に比べるとやはりまだ圧倒的に少ないです。あまりこういった媒体はないかと思いますし、面白い作品をこれからも沢山紹介していきますので『東南アジア文学』是非読んでみてください。

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『東南アジア文学』tumblr :  http://sealit2013.tumblr.com/

tumblrの更新情報はtwitter(@sh0f)にもアップしています。

バンコク独立系書店探訪記「Candide Books」

しばらく更新が滞っていましたね。今年もよろしくお願いします。福冨です。バンコクの大学院に一年ほど通うことになりましたので、現地から色々と情報をお届けできたらと思います。

さて以前の記事でバンコクの独立系書店Bookmobyを紹介しましたが、新年明けたてに新しい独立系書店が(再)オープンしたとのことで行ってきました。それがこちらのCandide Booksです。

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大きなガジュマルの木が印象的ですね。

Candide Booksは、日本でもおなじみフランスの思想家ヴォルテールの小説『カンディード』から名前をとっています。(タイ語だとコンディットという音が近いです。)この書店、もともとは「ヌン(タイ語で1)」という出版社を経営していた若手作家の10デシベルとキッティポン・サッカーノンの二人が、2009年に、現在とは違う場所にオープンしたものでした。その後2010年になって、出版社Betweentheline Publishingの編集長、パッドさん(P’Padd)ことドゥアンルタイ・エーサナーチャータンさんが経営を引き継いで、現在のオーナーになっています。

2011年のバンコク洪水のタイミングで一時休業し、移転先を探していましたが、建築家でデザイナーのドゥアンリット・ブンナーク氏の事務所The Jam Factoryの敷地内に移転が決まり、今年一月二日に再オープンとあいなりました。

もともとはチャオプラヤー川を使った河川舟運のための倉庫だった建物を使用しているため、店内のスペースはゆったり、天井も高く広々かつ落ち着いた雰囲気になっています。

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入り口から店内を見た図。ショールームみたいですね。

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店内にはソファーもあります。

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お店の外でもゆったり座って読書ができる。

 

 

 

 

 

 

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品揃えはタイの小説および海外文学のタイ語訳が比較的多めです。オーナーのパッドさんは読書量も、本に関する知識も非常に豊富で、小説が多いと言ってもバリエーションに富んでいて、本棚を眺めていて飽きません。(最近は更新が減っていますが、パッドさんの書評ブログはタイの読書家たちに大人気です。)

もともとは人々の社交場としてのカフェをベースに書店のイメージが作られていたそうで、おしゃべり大好きなパッドさんの人柄もあいまって、色々なことを教えてもらえます。

右上の写真の方がオーナーのパッドさんことドゥアンルタイ・エーサナーチャータンさん。「仕事してる風がいいでしょ」という本人からの提案でポーズをとってもらったらだいぶシリアスなポートレートになってしまいましたが、実際はお茶目で物腰柔らかな女性です。

 

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エスプレッソ系のメニューも、ペーパードリップのコーヒーもあります。お茶は六種類のブレンドティーから選べます。

さて、名編集者かつ読書家であるパッドさんですが、読書にコーヒーはつきもの?ということで大のコーヒー好きでもあります。ぼくもバンコクでおすすめのコーヒー屋さんを教えてもらったことがあります。

ここ数年バンコクでもいわゆるサードウェーブ・コーヒーのお店が増えていますが、こちらでもこだわりのシングルオリジンの豆を味わうことができます。さらにお茶のバリエーションも豊富で、ちょっと一息つきたいときにもぴったりですね。

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本を買いにくるお客さんだけでなく、ちょっと一息コーヒーをというお客さん、仕事の打ち合わせのお客さんなど、色んな雰囲気の方がいらっしゃって、みなさん思い思いの時間を過ごしています。

ということでパッドさんがじきじきにコーヒーを淹れてくれました。タイ北部チェンマイ県はメーカムポーンのコーヒーです。ご本人いわくタイで一番好きなコーヒー豆、とのこと。

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さて、ということでパッドさんに淹れてもらったコーヒーを飲みながら、早速こちらで買った本を読みましょう。日本へも何度もシンポジウムなどで訪れている人気の社会学・政治学・人類学者タネート・ウォンヤーンナーワーの『1968:革命の脚注』です。少し硬すぎましたかね。

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というところで終わってしまうとただお洒落なブックカフェを紹介したような形だけで終わってしまうのですが、今後はこちらのお店でもさまざまなイベント、セミナーが実施されていくようです。たとえばこの日曜日、一月十二日には、プラープダー・ユン、ウティット・ヘーマムーン、サカーリーヤー・アマタヤー、ワート・ラウィーなどの著名作家、編集者たちが参加する「文学における市民」と題したセミナーが開かれました。現在の政治的動乱の中で、文学には何ができるのか、作家たちによるさまざまな側面からの議論が見られました。

ということで、読書の場としても、憩いの場としても、意見交換と交流の場としても今後がますます楽しみなCandide Booksをご紹介しました。パッドさんおよびお店のスタッフのみなさん、ありがとうございました。(https://www.facebook.com/CandideBooks

 

※ちなみに、以下にCandide Booksのグーグルマップおよび、タイ語の地図を貼っておきますが、正直行って少し行きづらい場所にあります。主な行き方としては二つあります。

1)船にのる

BTSサパーンタークシン駅からサートーンの船着き場に歩いて行き、チャオプラヤー・エクスプレスに乗ります。方向は北行き、王宮前広場やワットポーの方向に向かう船に乗ります。15B。三つ目の船着き場、シープラヤー(Si Phraya)で一度降りたら、船着き場から一度外に出ます。道路に出たら左手にまっすぐ五分ほど歩き(ロイヤルオーキッド・シェラトンホテルを通り過ぎます)、River Cityと書かれた建物が見えますと、そこに「SI PHRAYA PIER」と書かれた白い建物の、渡し船の船着き場があります。そこから渡し船に乗りましょう。3.5Bです。

渡し船を降りたところに「KLONGSAN PLAZA」と書かれた建物と、市場が広がっています。建物に沿って真っすぐ市場を進んで行くと(途中右手にセブンイレブンがあります)、Watsonsという薬局が右手にありますので、その角を右に曲がって進んでください。少し進むと、Candide Booksがあります。

2)BTSからタクシー(もしくはバス)

BTSクルントンブリー駅の一番出口を出たところでタクシーをつかまえて、下にあるタイ語の地図を見せて行ってもらうという手もあります。路線バスだと同じところから84番に乗るという手もありますが、少し難易度が高いかもしれません。

↓Candide Books↓

 

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さらにタイのバンドがきます、Desktop Error日本ツアー&映像いろいろ

こんにちは、福冨です。7月8月と東京もバンコクばりに暑い日が続いていますね。いよいよ今年も夏がやって来ましたね。

さて日本の夏と年末は音楽の季節(なのか?)ということで今年の夏も相変わらずフェス三昧の方もいらっしゃるのではないでしょうか。すでにこちらのページでも色々と紹介がされていますが、今年のサマーソニックにはタイのアーティストが三組参戦します。

けれども今夏のタイミュージックはそれだけでは終わりません。こっちの記事でも少し触れられていますが、8月末には日本でも既に話題になり始めているバンド、Desktop Errorが来日します。

学生時代の友人・先輩で結成された5人組の彼らは、元々バーでレディオヘッド、ピンクフロイド、ストーンローゼズといったUKロックのカバーなんかをしていたみたいです。

SO::ON Dry Flowerから2006年に出た最初のミニアルバム “Instinct” はそんなUKロックや、オルタナ、シューゲイザーの影響がはっきり見える、勢いのあった一枚でした。サウンドも少しだけダークな感じがありますね。

こちらはのちにアーティット・アッサラット(Aditya Assarat)監督の映画『ハイソ』の主題曲になった”MIND”。アーティットはアピチャッポンと同じくらいの年齢の映画監督で、世界中の映画祭で色々と受賞しているので、ペンエークやアピチャッポンに続く、タイアート系映画の次世代として今注目を集めている人です。『ハイソ』は2010年の東京国際映画祭で上映されていたので、この曲を耳にした方もいらっしゃるかもしれません。

(そういえばこのCDが発売された2006年にはこちらもSO::ON Dry FlowerからAssajan JakgawanというバンドもいいCDをリリースしていて、バンコクのポストロックって熱いんだなあと思った記憶があります)

そしてそんな勢い(と若さ)がさらにいい方向に洗練されて、なおかつ引き出しがどんどん豊富になっていったのが2009年のアルバム “Ticket to Home” でした。絡み合うクリアなギターサウンドとセンチメンタルなメロディが軽快なリズムに乗って「これ、前のCDと全然違うじゃん!」と楽しい驚きをもらえたこちらの曲とか。歌詞もシンプルかつ今をしっかり見据えてる感じがいいです。

こちらは別の曲のライブのもよう。

パフォーマンスも熱いですね!タイのインディーズバンドとかアーティストは「ああ、いいなあ」と思ってもなかなか長く続けてくれないのも結構あって、CD一枚出たらそのあと身を潜めてしまって、、なんてこともあるので、”Instinct”のあとに”Ticket to Home”が出て、しかもそれがすごくいいアルバムだったのは個人的にすごく嬉しかった記憶があります。

このバンドを説明しようとすると、どうもつい簡単にポストロックとかシューゲイザーとか言ってしまいますし(やっぱり轟音もあるし)、東南アジアのポストロック、みたいなちょっとした流行りが日本でもあるかと思うのですが、もはやその辺の言葉では全くくくれない、タイだとかアジアだとかどこだとか関係ない、独特の音楽をDesktop Errorは生み出していますよね。

こちらは東北タイの楽器、ピン(2-4弦のギターめいた楽器です)まで登場してフィールドレコーディング。ボーカルのLekくんは東北タイ出身。

タイ国外へも精力的に活動の範囲を広げていっているこのバンドの今後がとても楽しみです。

と、そんなDesktop Errorは8月後半に日本をツアーします。8/24,25は関西、27-29は東京でライブがあります。曽我部恵一バンド、Baffalo Daughter、sgt.、miaou、マカオのユニットEvadeなんかと共演です。

以下スケジュールです。
8/24(sat) ONE Music Camp
8/25(sun) Kyoto Metro
8/27(tue) 新代田FEVER
8/28(wed) 月見ル君想フ
8/29(thu) 渋谷O-nest(viBirth × CINRA presents「exPoP!!!!! volume72」)

詳細はDesktop ErrorのFacebookページや、Offshoreのサイトをご覧ください。

ということでまだまだ終わらないタイミュージックの夏なのです!

(福冨渉)

 

サムット・ティータットの短編集『意味が消える前に』

こんにちは、福冨です。

バンコクでは第一回インディーズブックストア・ウィークの真っ只中で、各地の書店が独自のイベントやキャンペーンを実施しているころかと思います。今現地にいれないのがとても惜しいですね。

先のエントリーではそんな書店のうち、Bookmobyを紹介しました。実はこのBookmoby、公式のfacebookページで、毎週の売り上げランキングtop10を発表しています。でこのランキングが、結構入れ替わりが多いもので見ていて楽しいのです(もちろんずっとランキングに入ってる本というのもあるわけですが)。大きい本屋ではそうそう売れないであろう文芸書、思想書、歴史書だったりが入っているので。

その中で5月後半から数週間にわたってランクインして、ひそかな話題となっていたのが作家サムット・ティータットの短編集『意味が消える前に』でした。

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これは作家本人も言ってることなのですが、彼はタイ文学界ではまだほとんどノーネームの作家です。1984年生まれと非常に若く、これまで本名のチラット・チャルームセーンヤーコーン名義で二冊短編集を出していましたが、一つは自主制作本、もう一つは出版社の倒産でどちらも絶版。ペンネームとしてサムット・ティータットを使いはじめてからはこれが最初の作品集ということで、それも仕方ないのかもしれません。

どの作品もこの奇妙で、少し怖いくらいの表紙を反映するかのような味わいで、初めて読んだときは「ホラーか!」と思いました。シンプルで無感情な文体で日常が描かれはじめたと思ったら、途端に、違和感なく、異形の存在がそこに紛れこんでいて背筋がヒヤリとする、、

いわゆる不条理小説とはまた違うし、かといって別に恐怖を与えることが目的なわけでもなくて、あとがきにも書かれているように人間であること、動物であることの意味が問い直されているのでしょう。表紙の真っ二つになった鹿もそんなことを意味しているのかもしれません。少しだけアピチャッポン監督の映画っぽいところもあるのですが、短編ばかりということもあってそこまでの壮大なドラマ性はないのですよね。そのぶんダイレクトに異質な読後感が得られます。

この短編集、色々な作家とか批評家とかが自身のfacebookページで取り上げていたりと、ちょっとした話題になりつつあります。プラープダー・ユンが出て来たときは「新世代の代表」なんて言われてたわけですが、彼ももう40歳ですし、こういう新しい若手の作家が出てくるのはいいですね。さらに言えば自分で出版社をつくって、自分の本を出すという作家のモデルが、少しずつ増えてきている気がします。

そんなこと書かれたってタイ語じゃあ読めないじゃん、というご意見もあるかと思うのですが、彼の作品、いくつか英語になってます。Marcel Barangさんという方がひたすらタイの小説を英語にし続けてらっしゃって、そこで読めます。

“Conversation” — thai to english fiction

あとはe-bookも。

Ten Thai Short Stories

12 Thai Short Stories 2012

どれも名義は本名のチラット(Jirat Chalermsanyakorn)名義です。

ついでに言うと、なんとか日本語で読めるようにならないものかと現在画策中です。進展があったらこちらでもお伝えしますね。(福冨渉)

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(画像は承諾を得て彼の出版社Gloomphim Houseの公式Facebookページから拝借しています:https://www.facebook.com/gloomphim

 

 

バンコクの独立系書店bookmoby

こんにちは、福冨渉です。

最近、タイでインディーズブックストアが熱いみたいです。

インディーズブックストアというと何のこっちゃという感じですが、平たく言うと「大手書店が取り扱わないような本を扱う本屋さん」なんですね。タイの大きなショッピングモールなんかに入ってるような本屋さんは、どちらかというと大手出版社の傘下にあるところが多くて、その出版社が流通させてる本をメインに扱っているところが多いのです。

勿論、このタイプの本屋さんが最近になって突然出て来たという訳ではないのですが、最近は各地のインディーズブックストアが活発に色々活動しようとしてるみたいです。なんと来月6月の22日〜29日は「第一回 インディーズブックストア・ウィーク」と銘打って北はチェンマイから南はパッタニーまでの本屋さん15店が参加するイベントが予定されていたりして、ちょっとした盛り上がりを感じますね。

そしておそらく最近のこの動きを生み出したお店の一つが、bookmobyだと思います。

bookmobyは日581670_457909480949045_897895257_n本でも何冊か翻訳の出ている作家、  ラープダー・ユンが始めた本屋さん。

昨年頭にまず、本を書いてみたい作家志望の人たちが自由に作品をアップして交流するための場としてウェブサイトをオープンしたのですが、その後去年の9月に なって本屋さんの方もオープン。MBK向かいにあるBangkok Art and Culture Centre(BACC)の4階という立地もあって、結構な数のお客さんが訪れているみたいです。

プラープダー本人の趣味も多分に反映されているのか、品揃えはやはり小説(タイのものも外国のものも。bookmobyのmobyはハーマン・メルヴィル『白鯨』の「モービー・ディック」から来ています。)が多く、その他文化系・思想系を中心に売れ筋の本と、あまり普通の本屋にない本が混在してます。(もちろんプラープダーの出版社、typhoon booksの本も置いている)

さらにウェブサイトの方でもここで扱っている本が購入できるし、ものによっては電子書籍もあるので、遠方の人にもうれしいと。

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そしてもう一つこのお店の特徴は、トークイベントが 沢山開催されていること。

作家や学者の新刊が出れば著者と編集者、その他の作家が集まってトークしたり、出版社の人たちがタイの出版について話したり、インディーズブックストアの店主が集まってトークしたり、、と結構な頻度でイベントが行われています。

 

しかもそのイベントが結構な盛況ぶりだったりして。

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さらにbookmobyはBACCと一緒にbangkok creative writing workshopなる作家志望の人たち向けのワークショップを去年から続けて開催していて、こちらも作家、批評家、学者なんかが講師として呼ばれてるみたいです。

そしてそのトークイベントやらワークショップやらのようすが、youtubeの公式チャンネルでも公開されていて、気になる人はそちらで見ることもできるというサービスぶり(全部ではないですが)。

こんな動きを見ていると904093_478237748916218_1847997522_o、「タイ人の読書量は年間数行だ」(昔そういう調査があったのです)みたいな話も、もはやそんなリアリティはないのかなあと思えてきますね。

現実として、今のタイでは本が好きな人たちが集まることで新しい流れが生まれてきてるみたいです。

 

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ちなみにbookmobyなのですが、場所柄外国人観光客の方々もよくお店を訪れてきていまして、英語の本なんかもちらほらと置いてあります。さらに店内にはちょっとしたカフェスペースが併設されていて、タイのハーブジュースとサンドイッチを楽しみながら休憩、なんてこともできます。

暑い外歩きに疲れたら、冷房の効いてるBACCで展示を見て(基本的に無料だし)、帰りにちょっと本屋さんでいつもと違う休憩時間を過ごしてみるなんてのもいかがでしょう。

ちなみに営業時間は火~日の11:00~19:30です。

 

次回以降に他のインディーズブックストアの紹介もしていきますね。

以上、福冨渉(ふくとみ しょう)がお送りしました。普段からタイに行っては色んな本を買ってきて読んでいまして、近頃色んな動きが出てきていておもしろいので、これからタイの文芸界や出版界の話を書いていこうと思っています。それ以外にも面白い本なんかがあればそれも紹介したりしつつ、日本で読めるタイの小説の話なんかできたらな、と考えています。

よろしくお願いします。

(この記事の画像は全て許可をいただいた上でbookmobyの公式facebookページから拝借してます)

↓Bangkok Art and Culture Centre マップ↓