サムット・ティータットの短編集『意味が消える前に』

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こんにちは、福冨です。

バンコクでは第一回インディーズブックストア・ウィークの真っ只中で、各地の書店が独自のイベントやキャンペーンを実施しているころかと思います。今現地にいれないのがとても惜しいですね。

先のエントリーではそんな書店のうち、Bookmobyを紹介しました。実はこのBookmoby、公式のfacebookページで、毎週の売り上げランキングtop10を発表しています。でこのランキングが、結構入れ替わりが多いもので見ていて楽しいのです(もちろんずっとランキングに入ってる本というのもあるわけですが)。大きい本屋ではそうそう売れないであろう文芸書、思想書、歴史書だったりが入っているので。

その中で5月後半から数週間にわたってランクインして、ひそかな話題となっていたのが作家サムット・ティータットの短編集『意味が消える前に』でした。

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これは作家本人も言ってることなのですが、彼はタイ文学界ではまだほとんどノーネームの作家です。1984年生まれと非常に若く、これまで本名のチラット・チャルームセーンヤーコーン名義で二冊短編集を出していましたが、一つは自主制作本、もう一つは出版社の倒産でどちらも絶版。ペンネームとしてサムット・ティータットを使いはじめてからはこれが最初の作品集ということで、それも仕方ないのかもしれません。

どの作品もこの奇妙で、少し怖いくらいの表紙を反映するかのような味わいで、初めて読んだときは「ホラーか!」と思いました。シンプルで無感情な文体で日常が描かれはじめたと思ったら、途端に、違和感なく、異形の存在がそこに紛れこんでいて背筋がヒヤリとする、、

いわゆる不条理小説とはまた違うし、かといって別に恐怖を与えることが目的なわけでもなくて、あとがきにも書かれているように人間であること、動物であることの意味が問い直されているのでしょう。表紙の真っ二つになった鹿もそんなことを意味しているのかもしれません。少しだけアピチャッポン監督の映画っぽいところもあるのですが、短編ばかりということもあってそこまでの壮大なドラマ性はないのですよね。そのぶんダイレクトに異質な読後感が得られます。

この短編集、色々な作家とか批評家とかが自身のfacebookページで取り上げていたりと、ちょっとした話題になりつつあります。プラープダー・ユンが出て来たときは「新世代の代表」なんて言われてたわけですが、彼ももう40歳ですし、こういう新しい若手の作家が出てくるのはいいですね。さらに言えば自分で出版社をつくって、自分の本を出すという作家のモデルが、少しずつ増えてきている気がします。

そんなこと書かれたってタイ語じゃあ読めないじゃん、というご意見もあるかと思うのですが、彼の作品、いくつか英語になってます。Marcel Barangさんという方がひたすらタイの小説を英語にし続けてらっしゃって、そこで読めます。

“Conversation” — thai to english fiction

あとはe-bookも。

Ten Thai Short Stories

12 Thai Short Stories 2012

どれも名義は本名のチラット(Jirat Chalermsanyakorn)名義です。

ついでに言うと、なんとか日本語で読めるようにならないものかと現在画策中です。進展があったらこちらでもお伝えしますね。(福冨渉)

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(画像は承諾を得て彼の出版社Gloomphim Houseの公式Facebookページから拝借しています:https://www.facebook.com/gloomphim

 

 

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