コンピ「ワット・ハプンズ・イン・ディス・スモールルーム」(smallroom)(2000)
V.A “What Happens in this Smallroom?”(smallroom)(2000)
2000年の1月に発売され、バンコクだけでなく海外でも話題を巻き起こしたsmallroomレーベルの第一弾コンピレーションアルバム。
ギターポップ、ボサノバ、スウェディッシュポップ風などなど10組のミュージシャンが1曲づつ参加。雑多でバラエティーに富んだ内容に、バンコクって街にこんなバンドがいるんだ!という驚きと共に、世界中の視線がバンコクに集まるきっかけになった。
・・・というのは大げさというかほぼ嘘で、少なくとも日本ではほとんど誰も注目してなかった。僕の認識では、当時の所謂タイポップファンって所謂芸能なタイミュージックにしか興味なかったんだから当然のこと。なんて書くと怒られそうだが、「タイミュージックが好き」っていうのが、「タイが好き」の前提のもと、「タイのビーチが好き」「カオサン安宿的バックパック旅行が好き」「タイ料理が好き」「タイで売春するのが好き」なんていう横に並んでいるもんなのだから仕方がない。(なんて書くと怒られるって・・・。)
で話を戻して、偶然このCDを聞くことになった一部の海外音楽ファンの間で反響があったのは確かで、バンコク在住のドイツ人の小説家などはこのCDに驚き、早速smallroomにコンタクトを取り、後のsmallroomのコンピに収録されたりもしている。話がまたちょっと飛ぶが、この辺の在住外国人がいるような国際的な環境や、さらにアプローチのし易さっていうのがこの現代のバンコクのシーンの特徴のひとつだったりもする。
収録ミュージシャンの「Groovy Airline」や「 Greasy cafe’」的な「オシャレ」なバンド名もさることながら、「Japanese dance music」や「swedish pop」なんて具合に各曲にテーマが書いてあるのにまず驚いた。確信犯的というより、開けっぴろげなその態度はやはりまだいろいろやる余地が残っているバンコクの勢いだったと今では思う。「Japanese dance music」というコピーがついたM2は「これってHCFDM!?」(死語っていうか誰も覚えてない)なんて思いがよぎる楽しくキュートなポップチューン。当時から「アリ」なのか「ナシ」なのかなんて話がやはりありましたが、それは日本国内を見た話でバンコクで起きているこの出来事を想像すると僕には「アリ」「ナシ」なんかよりもワクワク感の方が正直大きかったのです。
細かい話だが、このコンピと同時期にPANDA RECORDを立ち上げるStylish nonsenseの曲も収録。このPANDA、smallroom周辺のミュージシャンのネットワークというのはラーカバンという国立大学の学生のネットワークである。ここの建築学部の学生を中心にラーカバンからは今のバンコクの音楽ビジネスに関わる人が多数出ている。おかしなロックフェスFat Festivalを開催するラジオ局Fat RadioのスタッフやDJもここ出身者がいる。ラーカバンだけでなく名門チュラロンコーンもそうだがタイの場合建築学部出身者がクリエイティブな職種につくことが多い。当時タイでは建築学部出身ということにかなりステイタスがあったようで、90年代は優秀な人が集まっていたようです。カンヌ映画祭受賞映画監督のアピチャートポンもたしか建築出身。
さて、先ほども書いたように、このCD発売時のsmallroomは外国人にとっては、全く未知なレーベルで、「いやーいよいよバンコクにもこういうシーンが!」的な驚きをもたらしてくれたんだけれども、これは外国人的な話であって、実はタイ人的にはまた違うストーリーがあった模様。「4 tao ther(シー・タオ・ター)」なんて既にコアなファンもいるロックバンドだったし、何よりこの「smallroom」自体が、94年にタイネオアコのマスターピース「VIEW」を出しカルトな人気を誇った伝説のバンド「crub(クラッブ)」のメンバー達のプロジェクトだったから(crubは全く売れずに即解散)一部のバンコクの音楽ファンたちの期待は大きかったに違いない。
smallroomのディレクターのRUNG氏に後から聞いたところ「そんなことなくって、smallroomはじめたときは、お前ら何考えてんかわかんねー、って言われたけどねえ」なんて風にも語ってますが(crubの時に報わなかった思いもあったはず)、smallroom以前/以後と今では言えるほど、このCDの発売以降バンコクの音楽状況が変わっていくことを当時の誰が予想できただろうか。crubとsmallroomというと、何故かフリッパーズ・ギターのことが思い浮かぶワタクシですが、この、ほぼシカトされ全く売れなかったタイのフリッパーズ・ギター的なバンドの思いが花開くのは21世紀のバンコクであったのだ。
余談:昨年ポリスターからsmallroomの2000年から2005年をまとめたコンピレーションを出しました。the sound of young bangkok。聴いてね(PR)。
曲順表
1 Moor :Will you marry me?
2 Groovy Airline : Sky painting
3 Sylish Nonsense : It’s her
4 Penguin Villa : How do i know?
5 Shakers : Sleeping love
6 Greasy cafe’ : Quest?
7 Fashion Show : That day
8 4 Tao Ther : Relaxing your life
9 Martian’ (abduct Cherry) : Stop please!
10 Bonus : The one
11 Moor : Where are you?Who you are? (slow) (再発ボーナストラック)
視聴はこちらhttp://www.smallroom.co.th/music001.html
【告知】
06年10月14日京都メトロでのバンコクミュージシャンのイベント smallroomのミュージシャンも来ます。
HP→POP ASIA 2006 +kyoto
監修したバンコクものコンピ/ウィスットの新刊
【SOIMUSIC的バンコクディスクガイド】小さな街で何が起きてるのか?
コメントをどうぞ